大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)549号 判決

被告人 柳沢義春

〔抄 録〕

論旨同第二点について。

検察官の昭和二十八年九月四日附起訴状に記載された第二、第三事実は「麻田加寿歩がその所有木炭一貨車分五百五十四俵を立川市曙町鈴木辰三方に保管しその処分を内堀に一任していたところ、(被告人は)その木炭代金を騙取しようと企て――右内堀を誤信せしめ昭和二十六年十月二日頃立川駅附近に於て内堀より木炭売却代金として現金十五万千円の交付を受けて騙取し、更に前同様内堀が麻田より処分方を一任された木炭一貨車五百五十八俵が国鉄原町田駅に入荷するや、――前同様手段を以つて内堀を欺罔し、同年十一月八日頃同駅附近に於て木炭売却代金として石井常七振出の額面十万円の小切手一通及び現金二万九千九百十五円の交付を受けてこれを騙取した」というのであるが、原審はこの詐欺の事実を横領罪として判示しているのであり、その理由は詳らかではないが、恐らくは被告人が内堀を欺罔し、よつて内堀が錯誤に陥つたものとの証明十分ならずと判断したが故であろう。ところで原判決はこの詐欺罪の訴因を横領罪として認定するに当り、訴因罰条の変更追加等が為されたことは記録上その形跡を認め得ないのである。所論はかくの如きは審判の請求を受けない事件につき判決をした違法があると主張するのであるが、この両者の間では犯罪の客体目的物がいずれも麻田所有木炭の売却代金でその金額も売却前の木炭の数量も両者合致するところ、一は内堀に対する欺罔手段が施用されたとし詐欺罪を構成するものとされ他はこれを否定しつつ内堀から木炭代金を受領して後これを費消したものとして横領罪が成立したとするのであり、両者の間犯罪の被害者に於て又犯行の日時場所方法等に於て詐欺と横領との差異に応じて変更を来した点は存するにしても、その間おのずから共通の部分があつて、両者は公訴事実の同一性を害するものではないと解せられるのである。従つて所論のように審判の請求を受けない事件につき判決をした違法があるとの非難は当らないが、前記のとおり訴因の変更追加なくして詐欺の訴因を横領として判示したのは訴訟手続に法令の違反があるというべきで違法たるを免れない。しかし昭和三十二年八月十五日当審第九回公判期日に於て検察官から予備的訴因追加の申立があつて、前記起訴状第二、第三の事実はそれぞれ横領罪として予備的に訴因の追加が為されているところであるから、原審の前記訴訟手続に於ける法令違反はこれにより既に治癒せられ、右の違反は結局判決に影響を及ぼさないものと解すべきであるから、論旨はその理由がない。

(加納 吉田作 山岸)

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